熟練の技を持つ匠と選び抜かれた素材と道具、それらがひとつとなって創り出されます。

爪掻きの名称の所以
西陣爪掻本綴織の名称の所以ともなった爪で掻き寄せる技法(爪掻)は、その名の通り爪で糸を掻き寄せて織り込みます。そのため匠は常に指の爪先にヤスリをあて、ノコギリの刃のようにギザギザに刻んでいます。その爪で配色糸を1本1本掻き寄せて、匠の技と感性により文様を織り描き、筋立てという櫛で織り固め文様を完成させます。

図案

下絵は具象的なものや抽象的なものなど様々で、匠が自ら創作し描く場合と画家に創作品の構想を伝えて描いてもらう場合があります。また下絵によっては織り易いものと織り難いものとがあり、特に細い線が縦に立ち並んでいるものは手間のかかる割りに見栄えが良くないのでこのような事も勘案して下絵は制作されます。
爪先で糸を掻き寄せ文様を織るのはもちろんのこと、それらの文様は計算された型紙のような図案があるのではなく、まるで白いキャンパスに絵を描くように下絵とよばれる図案に代わる絵をみながら、職人の感性、創造力と高度な技術によって織り描かれてゆきます。
織っている時に見えているのは裏面になり、表面は下になっている方になり、文様の裏を見ながら織っていることになります。鏡を見ている自分と同じ鏡像の状態なので織り上がった表面の文様をイメージしながら織ります。
それは絵具の色を混ぜ合わせるように多彩な糸を撚り合わせて新たな色を創り出す、線を引くように濃淡を表現するようにハツリやボカシという技術を駆使して文様を創り出す創造力と高度な技術の集大成となり、同じ図案を用いたとしてもひとつひとつに個性があり世界にひとつだけの作品として生まれます。
綴れ
綴絹糸の種類
 
爪掻本綴織(本綴織)に使用する絹糸は他の織物よりも太く丈夫な絹糸で綴れ用に撚り合わせたものを用います。それは細いものから太いものまで(40枚用、50枚用など太さがあります)ありますが、通常、帯を織るのに用いるものは40枚用と呼ばれるもので、経糸(たていと)緯糸(ぬきいと)には綴絹糸(2本駒撚りにした撚糸で経糸は緯糸よりも細い)を使用します。
緯糸には金銀糸、金銀糸を撚り合わせた金銀砂子糸や金銀杢糸もあります。経糸緯糸などの絹糸は絹糸屋(生糸屋)で金銀糸は金糸屋から仕入れます。
 
整経(せいけい)
 
整経は整経台(経台(へだい))を用いて手整経をしています。
整経作業には、整経台(経台(へだい))による「手整経」と「ドラム整経機」を用いたものとがありますが、現在は手間のかかる手整経は殆ど行われず、ドラム整経機による作業が主流となっています。
「手整経」は枠(わく)に巻いた経糸(たていと)を経台(へだい)という道具を使い、経糸を帯を織るために必要な長さと糸数を順良く揃えていきます。この作業は織り上がりの出来具合に大いに影響するので常に神経を使う大事な作業です。
 
絹糸の染め
 
匠が下絵を参考に地糸と文様を織るのに必要な色を選び出し、経糸や緯糸の染色を染屋(そめや)に依頼します。 染めは手染めで微妙な色も匠の意図するように染め上げる長年の経験による感と高度の技術を要します。機械を用いる染色方法もあります。

 

綴機(つづればた)

織機(はたや)は木製の綴機(つづればた)と呼ばれる西陣織では最も歴史のあるもので、現代に至っても変わらず、全ての工程を手作業で行います。まず、織機(はたや)に整経(せいけい)した経糸(たていと)を取り付ける作業をします。千切(ちきり)に整経(せいけい)した経糸(たていと)を取り付け、その経糸(たていと)を1本ずつ綜絖(そうこう)、筬(おさ)の順に通します。すべての経糸(たていと)を通し終えたら、千切(ちきり)に巻き取り、最後に経糸(たていと)の端を妻木(つまき)に糊付けをして固定します。

また、千切(ちきり)に経糸(たていと)が幾分残っている場合は、新旧の経糸(たていと)を1本1本繋ぎ合わせる経繋ぎ(たてつぎ)を行います。このとき、経糸(たていと)の本数を帯巾に合わせて増減させます。帯巾が広い場合は本数を増し、帯巾が狭い場合は減らします。1本の帯を織る時に一からこの作業を行います。同じように帯よりも幅の狭い角帯や懐紙入れなども幅に合わせて経糸の本数を調節することから始まります。

糸の準備

次に緯糸の準備をします。二重五光(にじゅうごこう)に緯糸(ぬきいと)(地糸と配色糸)の綛(すが)を掛けて管巻(くだまき)で管(くだ)に巻きとる緯巻(ぬきまき)を行います。緯巻き(ぬきまき)を終えたら、緯糸(ぬきいと)を巻いた管(くだ)を杼(ひ)に装着して織り始めます。

織機の操作

まず、織機(はたや)の足下部に取り付けられた踏木(ふみぎ)を足で踏み下ろします。すると経糸(たていと)は綜絖(そうこう)により引き上げられて開口します。その開口したところに杼(ひ)を通して突き出し、框(かまち)で打ち込みます。この動作を一越ごとに繰り返すことで無地の部分が織り進められます。ある程度織ったところで歪んだり皺にならないように注意しながら妻木(つまき)に巻き取っていきます。簡単なように思えるこの単純な作業ですが、糸を引っ張る力加減から角度など技術を要するため、人の手で歪まずに一定の巾で一定の厚みに織ることは大変難しいことです。

 

文様の織り方

文様の織り方は、下絵(したえ)を経糸(たていと)の下に挿し込み、経糸(たていと)を透かして下絵(したえ)を見ながら、文様を織ります。その下絵を見ながら織物として表現することは、爪掻の技術もさることながら、豊かな創造力も重要となります。色を創り出し、技を用いて、どのように表現するか匠の技と創造力豊かな感性を要する織物です。

文様を織る時も、織機(はたや)の足下部に取り付けられた踏木(ふみぎ)を足で踏み下ろします。すると経糸(たていと)は綜絖(そうこう)により引き上げられて開口します。このとき文様を織るのに必要な部分の経糸(たていと)だけを杼(ひ)ですくい、配色糸を通して爪で掻き寄せます。

文様の織り方の基本は西陣爪掻本綴織の名称の所以となった爪掻の技法を用います。
それはノコギリの刃のようにギザギザに刻んだ爪で配色糸を1本1本掻き寄せ織り込む爪掻きの技法です。この爪掻の技法には把釣織(はつりおり)と暈し織(ぼかしおり)があり、文様を表現する方法として使い分けます。

把釣織(はつりおり)は、文様を織り込むときに配色糸は色と色の境でそれぞれ織り返されて経糸(たていと)に沿って細い隙間をつくります。この細い隙間を把釣孔(はつりめ)といい他の織物には生じない爪掻だけの特徴です。暈し織(ぼかしおり)は文様を織り込むときに配色糸を色と色の境で左右が重なるように順次に織り込んで暈します。
爪掻の技法である把釣織(はつりおり)暈し織(ぼかしおり)は〔表裏ともに同じ文様が現れます。〕これはジャガード織機で織る手織りの綴れをはじめ、他の織物にはない〔爪掻だけの特徴〕です。

経済産業大臣指定伝統的工芸品 西陣織伝統工芸士 京都府伝統産業優秀技術者(京の名工) 三代目今井春凰