今井つづれ

織りの匠と選び抜かれた道具と素材、それらがひとつとなって創り出されます。

今井つづれ
made in Japan Kyoto

つづれ織りの美

綴織(つづれおり)はおよそ四千年の歴史を誇り、世界最古は古代エジプトのコプト織とされています。日本へは飛鳥時代に伝承したとされ、綴織、西陣織の中でも最も歴史があり、最古の歴史そのままの伝統技法で織る綴織です。
綴織特有の技、爪掻き。爪掻きは鋸刃のように刻んだ爪で糸を1本1本掻き寄せ織るつづれ織りの技。「日に寸、五日に寸、十日に寸」と例えられるほどの月日と高度な技術を要するため生産数も極僅かで、日本美術織物の最高峰と名高い織物です。
 
つづれ織り
つづれ織り

伝統工芸士

経済産業大臣指定伝統的工芸品
西陣織 伝統工芸士 今井春凰
西陣爪掻本綴織 今井つづれ
西陣織工業組合登録番号2496番
つづれ織り
つづれ織り
昔ながらの機で織る
 

つづれ織り

つづれ織り
爪掻の名称の所以

爪掻(つめかき)は、その名の通り爪で糸を掻き寄せて織り込みます。そのため匠は常に指の爪先にヤスリをあて、ノコギリ刃のようにギザギザに刻んでいます。その爪で配色糸を1本1本掻き寄せて、匠の技と感性により文様を織り描き、筋立てという櫛で織り固め文様を完成させます。

つづれ織り
図案

下絵は具象的なものや抽象的なものなど様々で、匠が自ら創作し描く場合と画家に創作品の構想を伝えて描いてもらう場合があります。また下絵によっては織り易いものと織り難いものとがあり、特に細い線が縦に立ち並んでいるものは手間のかかる割りに見栄えが良くないのでこのような事も勘案して下絵は制作されます。

つづれ織り
感性と技

爪先で糸を掻き寄せ文様を織るのはもちろんのこと、それらの文様は計算された型紙のような図案があるのではなく、まるで白いキャンパスに絵を描くように下絵とよばれる図案に代わる絵をみながら、職人の感性、創造力と高度な技術によって織り描かれてゆきます。

つづれ織り
ハツリとボカシ

織っている時に見えているのは裏面になり、表面は下になっている方になり、文様の裏を見ながら織っていることになります。鏡を見ている自分と同じ鏡像の状態なので織り上がった表面の文様をイメージしながら織ります。 それは絵具の色を混ぜ合わせるように多彩な糸を撚り合わせて新たな色を創り出す、線を引くように濃淡を表現するようにハツリやボカシという技術を駆使して文様を創り出す創造力と高度な技術の集大成となり、同じ図案を用いたとしてもひとつひとつに個性があり世界にひとつだけの作品として生まれます。

今そこにある存在感

熟練の技と研ぎ澄まされた感性が創り出す織の美。

西陣爪掻本綴織
 
つづれ織り

製作工程

つづれ織り
綴の絹糸

つづれ織りの絹糸はタテ糸ヨコ糸ともに綴織用に撚り合わせたものを用います。それは他の織物よりも太く丈夫な絹糸です。細いものから太いものまでありますが(40枚用、50枚用など太さがあります。)通常、帯を織るのに用いるものは40枚用と呼ばれるもので、経糸(たていと)緯糸(ぬきいと)には綴絹糸(2本駒撚りにした撚糸で経糸は緯糸よりも細い)を使用します。 緯糸には金銀糸、金銀糸を撚り合わせた砂子糸や杢糸もあります。経糸緯糸などの絹糸は絹糸屋(生糸屋)で金銀糸は金糸屋から仕入れます。

つづれ織り
タテ糸の整経

整経(せいけい)は整経台(経台(へだい))を用いて手整経をしています。 整経作業には、整経台(経台(へだい))による「手整経」と「ドラム整経機」を用いたものとがありますが、現在は手間のかかる手整経は殆ど行われず、ドラム整経機による作業が主流となっています。 「手整経」は枠(わく)に巻いた経糸(たていと)を経台(へだい)という道具を使い、経糸を帯を織るために必要な長さと糸数を順良く揃えていきます。この作業は織り上がりの出来具合に大いに影響するので常に神経を使う大事な作業です。

つづれ織り
絹糸の染め

匠が下絵を参考に地糸と文様を織るのに必要な色を選び出し、経糸や緯糸の染色を染屋(そめや)に依頼します。 染めは手染めで微妙な色も匠の意図するように染め上げる長年の経験による感と高度の技術を要します。機械を用いる染色方法もあります。

つづれ織り
綴機

機(はた)は木製の綴機(つづればた)と呼ばれる西陣織では最も歴史のあるもので現代に至っても変わらず、全ての工程を手作業で行っています。まず、織機(はたや)に整経(せいけい)した経糸(たていと)を取り付ける作業をします。千切(ちきり)に整経(せいけい)した経糸(たていと)を取り付け、その経糸(たていと)を1本ずつ綜絖(そうこう)、筬(おさ)の順に通します。すべての経糸(たていと)を通し終えたら、千切(ちきり)に巻き取り、最後に経糸(たていと)の端を妻木(つまき)に糊付けをして固定します。

つづれ織り
タテの糸

千切(ちきり)に経糸(たていと)が幾分残っている場合は、新旧の経糸(たていと)を1本1本繋ぎ合わせる経繋ぎ(たてつぎ)を行います。このとき、経糸(たていと)の本数を帯巾に合わせて増減させます。帯巾が広い場合は本数を増し、帯巾が狭い場合は減らします。1本の帯を織る時に一からこの作業を行います。同じように帯よりも幅の狭い角帯や懐紙入れなども幅に合わせて経糸の本数を調節することから始まります。

つづれ織り
ヨコの糸

次に緯糸(ぬきいと)の準備をします。二重五光(にじゅうごこう)に緯糸(ぬきいと)(地糸と配色糸)の綛(すが)を掛けて管巻(くだまき)で管(くだ)に巻きとる緯巻(ぬきまき)を行います。緯巻き(ぬきまき)を終えたら、緯糸(ぬきいと)を巻いた管(くだ)を杼(ひ)に装着して織り始めます。

つづれ織り
機の操作

まず機(はた)の足下部に取り付けられた踏木(ふみぎ)を足で踏み下ろします。すると経糸(たていと)は綜絖(そうこう)により引き上げられて開口します。その開口したところに杼(ひ)を通して突き出し、框(かまち)で打ち込みます。この動作を一越ごとに繰り返すことで無地の部分が織り進められます。ある程度織ったところで歪んだり皺にならないように注意しながら妻木(つまき)に巻き取っていきます。簡単なように思えるこの単純な作業ですが、糸を引っ張る力加減から角度など技術を要するため、人の手で歪まずに一定の巾で一定の厚みに織ることは大変難しいことです。

つづれ織り
文様を織る

文様の織り方は、下絵(したえ)を経糸(たていと)の下に挿し込み、経糸(たていと)を透かして下絵(したえ)を見ながら、文様を織ります。その下絵を見ながら織物として表現することは、爪掻の技術もさることながら、豊かな創造力も重要となります。色を創り出し、技を用いて、どのように表現するか匠の技と創造力豊かな感性を要する織物です。

つづれ織り
つづれ織り
タテ糸の開口

文様を織る時も、機(はた)の足下部に取り付けられた踏木(ふみぎ)を足で踏み下ろします。すると経糸(たていと)は綜絖(そうこう)により引き上げられて開口します。このとき文様を織るのに必要な部分の経糸(たていと)だけを杼(ひ)ですくい、配色糸を通して爪で掻き寄せます。

つづれ織り
ヨコの糸

文様の織り方の基本は西陣爪掻本綴織の名称の所以となった爪掻(つめかき)の技法を用います。それはノコギリ刃のようにギザギザに刻んだ爪で配色糸を1本1本掻き寄せ織り込む爪掻きの技法です。この爪掻の技法には把釣織(はつりおり)と暈し織(ぼかしおり)があり、文様を表現する方法として使い分けます。

つづれ織り
把釣織と暈し織

把釣織(はつりおり)は、文様を織り込むときに配色糸は色と色の境でそれぞれ織り返されて経糸(たていと)に沿って細い隙間をつくります。この細い隙間を把釣孔(はつりめ)といい他の織物には生じない爪掻だけの特徴です。暈し織(ぼかしおり)は文様を織り込むときに配色糸を色と色の境で左右が重なるように順次に織り込んで暈します。

つづれ織り
爪掻の技だけ

爪掻の技法である把釣織(はつりおり)暈し織(ぼかしおり)は表裏ともに同じ文様が現れます。これはジャガード織機で織る手織綴・紋綴をはじめ、他の織物にはない爪掻だけの特徴です。